記録:What’s a ZINE?

―長めのまえおき―

2020年9月に開業してから2年になる。2021年には拠点ができているはずだった。自分が選書した本やZINEを扱って、島内の本屋さんや図書室とはまた違う「本と出会える場所」にしたいと思っていた。

はずだった、ということはまだできていない。私ではどうすることもできない事情で動きだせずにいる。

やりたいことをやれない気持ちをくすぶらせていた私に、ひとつの嬉しい知らせが届く。魔術書工房・永都さんから「利尻島へ移住するかもしれない」という知らせだった。

永都さんとはTwitterで出会い、「推し紙!~紙好きによるただ紙について語りたいだけの本~」を共作した仲。本の制作時のオンライン対談では、はじめましてなのに「延々と話せるな、この人と」と親近感を感じていた。いつか必ず対面したいと思ってはいたのだけれど、そんな人が私の住まう利尻島へ来る──これは、めぐり合わせとしか思えなかった。

2022年4月。知らせの通り、永都さんは利尻島民となった。はじめての対面なのに、ずっと昔から知っている友人に久々に会ったようななんとも不思議な感じがした。

共に活動するまでに時間はかからなかった。その活動の軸として「利尻 紙◇本ラジオ」(以下、紙◇本ラジオ)と「What’s a ZINE?」(以下、ワツジン)を計画し、Twitterでのスペース配信やイベントの開催まで実現させた。

(実はまだお知らせしていない活動の軸もあるけれど、それはまた違う機会に)

2022年9月にしているはずだったことについては、まだ実現していない。けれど、それよりもはるか先にぼんやり存在していた「夢」のいくつかが永都さんの利尻移住によって叶うことになった。


―イベント準備―

さて、そろそろ本題のワツジンの振り返りを記録していきたいと思う。ワツジンイベントの概要についてはホームページにて。

オフラインのイベントを利尻島でやりたい。という気持ちは常々あったけれど、そういったイベントの経験が一切なかった私には正直、夢のまた夢くらいの代物。ただ、「淡濱社」の名前だけはなんとなく知っていただくことも増えたけれど、拠点が定まらないこともあって「一体どんな人物なのか?」というのを声を聞くこともあり、その部分を現在補完し得るのは、オフラインで短期間でも「必ずここにいますよ」と示せるイベントくらいしか思いつかなかった。

じゃあどうするかな?と考えていたところに、永都さんからイベントの共同開催をご提案いただいた。ふたりでなら、できるかもしれない。すぐにそう感じて即答でイベントの開催を決めた。

じゃあイベントの準備を始めようとなったとき。私は右も左もわからずだったので、流れや方向性、スケジューリングや段取りみたいなものは永都さんがほとんど提示してくれて、すりあわせをしていく感じだった。導かれたと言ってもいい。

私が一切持ち合わせてなかったイベントの「経験」の部分。それを持つ永都さんが惜しみなく示してくれたからこそ、ワツジンは無事に開催されたのだと閉幕してから改めて感じている。


―9月16日―

風がない。波もない。利尻にいるとそんな日が珍しく感じる。そんな一年の中でも珍しい日がワツジンの初日にあたった。これは幸先がいいぞと思っていたら、息子に「きょう、ほいくしょおやすみ?」と聞かれてヒヤッとした。ただ、この日はただ聞いてきただけのようで、ご機嫌で登所してくれた。もしかしたら、気を遣ってくれたのかもしれない。

イベント会場となる利尻町定住移住支援センターツギノバのオトノバ。元々中学校の音楽室だったこの場所は、どこか懐かしい感じがする。少し手はくわえられているものの、ほとんど昔のままだ。

今日から3日間、ここがワツジンの会場となる。人が来るのか心配だった。最初のひとりが来るまで、不安だった。けれど、そんな気持ちを準備の慌ただしさでごまかしていた。

準備が落ち着いた午後、最初のご来場者さまがやってきた。いきなり二組でちょっと慌てた。島内在住の方と、観光の方と思われる二人組。

盛りだくさんのフリーペーパーを手に取り、作品をひとつひとつ見ていく。その様子をちらちら観察する。どんな風に作品を見ているか、どこを気にしているか、どんな会話をしているか(二人組などの場合)などを少しでもご出展者さまに伝えられるよう様子を伺った。ある作品に対して同じような反応もあれば、それぞれのご来場者さま特有の反応もあって面白かった。

あぁ。これが対面で作品を見てもらうということなのか。

一応、社会人となってからすぐ民間で販売・接客をしていたが、こんなに嬉しく感じたことはなかった。やはり自分が選んだ作品を見てもらっている、という部分が違うのだろうか。


―9月17日―

雨だった。風はない。しとしとと雨が降る日。読書にはぴったりな日な気もした。ただ、ご来場の方からすると来づらさもあるだろうかとまた心配な気持ちもよぎった。

けれど、午前中からご来場者さまの姿が。お知り合いの顔にマスクの下で笑みがこぼれる。

ZINEという世界があることに驚いた。そんなお言葉をいただいて、嬉しくなった。個人でこんな作品をつくる人たちがこんなにもたくさんいること、それを利尻島で読めること、とても興味深く楽しんでくれていた。

開催時間が終わる直前。赤ちゃん連れのおかあさんたちが立ち寄ってくれた。息子の懐かしい姿を見ているようで、つい赤ちゃんの話題でも盛り上がった。雨が強く降ってきていたから、雨宿りにちょうどよかったのかもしれない。そこから、作品にもふれていただいた。

薄暗さ、間接照明の光、そして雨音。何もなければ、ずっとここで読書をしていたい。そう思える空間だった。


―9月18日―

少し風が出てきた。あまりひどくならないことばかりを祈っていた。この日は会場からの搬出もあったから、大切な作品をぬらすわけにはいかない。

はじめのご来場者さまは親子の方々だった。おひとりで来てくださる方も主催と話しながら作品を楽しまれている方が多かったけれど、親子同士、友達同士などと来ているとそこで会話が生まれるので、そっと聞き耳を立てていた。いろんな作品の感想が聞こえる。こっそりメモをする。絶対にご出展者さまにお伝えしたい嬉しいお言葉ばかりだった。

これから飛行機で帰るのだけど、どうしても寄りたくてと立ち寄ってくださった方もいた。観光の方、島外の方が立ち寄ってくれたのもまた嬉しい。ワツジンイベントが、利尻の想い出のひとかけらになってくれたら……そんなことを思いながら気付けば終了の時間。


―イベント終わり

あっという間の3日間。やってみると「こうしておくともっとよかった」「次はこうしていきたい」という課題もあったけれど、はじめての主催イベントとしては上出来だったのではと思っている。

知名度もなく、規模も小さい。けれど、新しいことを利尻でできたということは小さなことではない。全く興味のない方のほうが多いだろうし、そもそもイベントをやっていたことも知らない方も多いだろう。そんな中でも、イベントを知って、わざわざ足を運んでくださった方がいたことが何よりも嬉しかった。

たくさんの素敵な作品を扱えたこと、島内外の方にご覧いただけたこと、ZINEというもの「そのもの」と「世界」を少しでも伝えられたこと。どれもひとりではできないことだった。

ご出展者さまあっての、ご来場者さまあっての、永都さんあっての、イベントだった。

ここには記していない感想については、永都さんとやっている「利尻 紙◇本ラジオ」第5回のアーカイブでも話しているので、こちらもお聞きいただけたらと思う。